ことし2025年は太平洋戦争の終戦後80年という日本人にとって節目の年。
戦時下の苦難の生活をリアルタイムで経験した語り手がどんどん減っていく中、当時の記憶や出来事、平和の想いを人類の遺産として高い解像度で残していくのは、実は喫緊の課題なのではないかと著者は思う。

そんな現状にあって戦時中および終戦後の外食事情を語るのが、中野区野方の1936年創業の『野方食堂』をはじめとする「元・民生食堂」の存在だ。
「民生食堂」成立までの背景を少し説明すると、真珠湾攻撃に端を発する太平洋戦争開戦の直前の1941年(昭和16年)4月、戦争の足音が近づくと国は総力戦下による食料不足を見越して国民ひとりひとりの食べる食料を管理統制する必要性に迫られた。
そこで農林省から「米穀割当配給制実施要綱(案)」にもとづき六大都市で米穀割当配給制度(米穀配給通帳制)と外食券制(1日2合3勺)が実施された。そして翌1942年(昭和17年)に発布された「食糧管理法」によって、米穀通帳制は六大都市に限らず全国で実施されることとなった。
このように家庭で使用するコメが配給制になると、自炊せず主に外食で生活する単身赴任者や独身者などに対しては米穀通帳と引き換えに外食券を交付。利用者は外食券と引き換えに登録された外食券食堂で食事が摂れる体制が都道府県により整備された。店側は客からもらった外食券に応じて行政から米の配給を受け取れるという仕組みだ。
終戦後の1949年に外食券食堂の制度は廃止されたものの、国民の厳しい食事情は続き闇市などでその日の食を繋ぎ不足するカロリーをどうにか補って生活している状況であった。そこで外食利用者の1日3食を安定化を目的にかつての外食券食堂の中から東京都が新たに指定したのが民生食堂であり、そこでは市場価格よりも低廉かつ良心的な価格で食事が提供された。下に当時の民生食堂開設の公示資料を抜粋引用する。
くらしに困つておられる人たちの食生活の安定を図るため一般配給物資により摂取されるカロリーを標準とした食事を実費で提供する民生食堂が、五月十六日より、港区芝田町四の二〇に開設されております。
一日三食四〇円で外食米穀通帳の予(預)託者に限り利用でき、一食売りはいたしません。
なお、この食堂の実績によつて、追々増設する予定です。
「東京都お知らせ」昭和24年5月31日 第21号1面より

『野方食堂』の店表のショーケースにディスプレイされた「東京都指定民生食堂」の看板。当然ながら民生食堂の制度自体はすでに廃止されて久しいが往時の姿を偲ばせる。2025年現在では元・民生食堂である飲食店は廃業などで数を減らしており、この『野方食堂』のほか両国『下総屋食堂』など都内に数店舗を残すのみ。
『野方食堂』で注文したもの
・まぐろとわかめのぬた ¥580
・A定食 ¥1019
・瓶ビール ¥640

わかめとまぐろのぬた

ビールのアテに注文。コバルト色の皿にマグロと酢味噌のコントラストが綺麗。


ブロック状のマグロは濃い風味としっとりとした舌ざわりと触感。ツンと爽やかな酸っぱさの酢味噌ともよく合ってます。
A定食

・とりから 2個
・豚肉生姜焼き
・キャベツ
・ご飯
・漬物
・小鉢
・味噌汁



衣には片栗粉が付けられていて唐揚げというより竜田揚げに近い薄くパリッとした食感。
たぶん肉はモモかな?ぷりっと弾力感がありつつも柔らかい。


厚切りの豚バラが使われている「豚肉生姜焼き」。
甘辛いタレにすりおろしショウガの清涼感、何気にふりかけてある白ゴマが香ばしいです。豚肉は脂身つきで甘みとジューシーさに富んでいる。

小鉢は「切り干し大根」。カレー粉が使われているユニークな味付けでしたが美味しいです。
ガラムマサラの風味が立っているのでビールのお供にもぴったり。

味噌汁はあっさりしており具はワカメのみとシンプル。

ご飯は大盛り無料です(画像はふつうサイズ)。白米に合うおかずが多いので嬉しいサービスですね。
あとがき
以上、現代に残る民生食堂『野方食堂』でした。
訪問したのは平日の夜、なんと満席御礼で店の外にまで待ちが生じている状態。驚いたのは客層の4割ほどが20代の若者で全体的をみても老若男女問わず幅広い客層の方が食事を楽しんでいました。
ふりかえれば食糧難の社会情勢の元で誕生した「民生食堂」。当然ながら飽食の現代ではその役割は変質していると思いますが、現在では野方ローカルで人気の大衆食堂として多くの人に愛されているのが垣間見えました。
ぜひ民生食堂の歴史にも触れつつ訪問してみてください。
メニュー表のギャラリー





お店の基本情報
店舗概要
- 名称:野方食堂(のがたしょくどう)
- ジャンル:食堂、居酒屋、定食屋
- 創業年:昭和11年(1936年創業)
所在地・アクセス
- 住所:東京都中野区野方5-30-1
- 最寄駅:西武新宿線「野方駅」南口より徒歩1分
営業時間・定休日
- 営業時間:
- ランチ:11:30~15:00
- ディナー:17:30~22:00〜22:30
- 定休日:毎週木曜日、不定休あり
連絡・予約
- 電話番号:03-3338-7740
- 予約:予約不可(並びによる順番制)
支払い方法
- 支払い方法:入口に現金のみの貼紙あり。カード・電子マネー・QR決済 すべて不可
席・設備
- 席数:約30~36席(店舗によって記載が多少異なります)
- 個室:なし
- 貸切:不可
- 禁煙:全席禁煙
『野方食堂』への行き方

西武新宿線の野方駅南口より下車。


駅前の商店街を南下しアーケードと吉野家の角を右折します。

右折すると松屋があり、その隣に『野方食堂』があります。
駅からの所要時間は徒歩約1分ほど。